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祝、南オーストラリア州政府事務所開設 in JAPAN!

― サリー・タウンゼンド氏インタビュー ―

2019年3月、東京の在日オーストラリア大使館内に南オーストラリア州政府の事務所が開設されました。南オーストラリア州と日本の繋がりがさらに深くなることが期待されます。事務所開設の経緯やこれから期待されることなどについて、サリー・タウンゼンド南オーストラリア州担当コミッショナーにお話を伺いました。

Q. 今回どのような流れで南オーストラリア州政府事務所が日本に開設されたのですか。

南オーストラリア州はかねてから日本と姉妹都市提携やビジネス面での交流があります。
私はオーストラリア・ニュージーランド商工会議所(ANZCCJ)に10年以上従事していて現在は代表を務めていますが、南オーストラリア州の大臣や商工会議所の代表団などが日本を訪れた時にはいつもこう話していました。
「南オーストラリア州の事務所を日本に作りましょう。私が運営していきます」。
何故なら、日本では南オーストラリア州のことは残念ながら殆ど知られていなく、南オーストラリア州側も日本で何をすべきか分かっていなかったからです。
私のアドバイスはすぐに受け入れられた訳ではありませんでしたが、私は真剣でした。日本市場の開拓は、南オーストラリア州出身の担当者を現地に配置することなしには始まりませんし、その担当者は日本と南オーストラリア州の繋がりを発展させることに情熱を持っていることが大事だと考えていました。
私は現南オーストラリア州知事であるスティーブン・マーシャルにも、彼がまだ州知事になる前から私の考えを話していました。そして彼は「私が知事になったら日本に事務所を開きます」と語り、知事就任後早速行動を起こしたのでした。
まもなく東京事務所開設に伴う担当者の募集告知があり、私はすぐに応募して正式に採用されました。そして今年3月、待望の南オーストラリア州政府事務所が在日オーストラリア大使館内に開設されました。

Q. 日本事務所はどのような体制で運営されていますか。

現在はまだ私一人で運営していますが、ビジネス開発マネジャーをこれから新規採用する予定です。アデレードや南オーストラリア州のこと、物事の様々な側面が分かり、情熱も持ち合わせた日本の人がベストだと考えています。日本では、南オーストラリアといえばただオーストラリアの下の方にある場所という程度で州として存在していること自体もあまり知られていませんので、この"逆境"を跳ね返すことができる情熱はとても大切だと思います。

Q. 南オーストラリア州の認知度が日本で上がることを期待しますが、日本事務所としての活動は具体的にどのような内容になりますか。

基本的には、日本の消費者に南オーストラリア州についてもっと知ってもらう機会を作っていきたいと考えています。例えば南オーストラリア州のライフスタイルを知って体験してもらえるようなイベントを東京や大阪で毎年開催することもアイデアの一つです。南オーストラリア州はワインの輸出が盛んですが、ワインを日本でもっとたくさん買ってもらうためには、南オーストラリア州がどのようなところなのかを日本の消費者がイメージできるようになることが重要です。そして、そのようなイベントを通して少しでも多くの人が南オーストラリア州に興味を持ってもらい、実際にアデレードヒルズやハーンドルフ、バロッサバレー、ライムストーンコースト、カンガルー島など様々な南オーストラリアの魅力ある場所を訪ねてもらうようなプロモーション企画などもできればと考えています。南オーストラリア州を始めオーストラリアの企業にスポンサーになっていただくこともできると思います。アデレードヒルズ発の有名ブランド 「ジュリーク」など、南オーストラリア州には魅力的なブランドや企業があります。
また、南オーストラリア州を"経験"する人が増えていくことで、ワイナリー巡りなど南オーストラリア州を周るツアーが作られ、子どもの留学先としてアデレードを選ぶ保護者が増え、ひいては日本とアデレードの直行便が就航する、そんなことも可能だと思います。
すべては"知ってもらう"ことから始まります。
そして、一度知ってもらえると、南オーストラリア州は日本ではとても興味を持ってもらえる場所だということを、私はこれまでの経験から確信しています。

Q. 日本とアデレードの直行便ができたら素晴らしいですね。いつ頃に期待できますか。

早く実現できることを期待しています。直行便は起爆剤になると思います。
私は子どもの頃、"大きな田舎町"のアデレードに不満を持っていました。しかし、国際線の就航を考えるとき、空港からホテルや様々な施設が集まる市内中心部まで"20分のアクセス"ということは大きな利点になります。また、アデレードと日本は時差が殆どありません。
カンタス航空の人たちは私がいつも「アデレードへの直行便はいつ?」と聞くことにうんざりしているかもしれませんが、カンタス、JAL、ANA、誰か早く直行便を作ってください!

Q. 南オーストラリア州にはいくつか核となる産業がありますが、日本市場開拓には具体的にどの産業が中心になってきますか。

最も大きいのはやはり、飲料やワインも含めたフード産業です。私たちにはとても大きな可能性があります。最近もアデレードからジンを日本に輸入したいという方から問い合わせがありました。食の安全性は日本でも大きな関心事ですが、その点でも南オーストラリア州にはチャンスがあると思います。
教育産業もとても重要な位置付けです。アデレードでは多くの学校が日本の学校と姉妹校提携を結んでいますが、それはとても素晴らしいことです。最近あるビジネスの会席で話しをしていて面白い発見がありました。オーストラリア貿易促進庁のコミッショナーが日本に交換留学の経験があり、そのスタッフの方も、そして私の隣の席の方も日本への留学経験があり、結局私も含めてその場にいた9割が日本との関係を自らの留学から始めていたのです。留学は将来的な繋がりという意味でもとても貴重なものです。
バイオサイエンス、水素エネルギー、宇宙そして防衛の各産業も南オーストラリア州の強みです。
特にバイオサイエンスはオーストラリア国内の他州と差別化を図ることができる分野で、アデレード市内中心部のSAHMRI (South Australian Health and Medical Research Institute)やCMAX Clinical Researchなど最先端のリサーチ施設での研究が日々進められています。

Q. 宇宙とい えば、はやぶさ2が2020年末に地球に帰還しますが、南オーストラリア州に着陸予定ですね。

アデレードから北へ約500kmのWoomeraに着陸する予定です。南オーストラリア州には広大な平らなスペースがありますので、着陸には適しているのだと思います。
南オーストラリア州のスペースセンターはJAXAと比べると規模は本当に小さいですが、探査機を始めテクノロジーとしては誇れるものを持っています。宇宙産業は南オーストラリア州にとっても将来性のある分野です。
日本人宇宙飛行士の毛利衛さんはアデレードのフリンダース大学を卒業されていますし、日本と南オーストラリア州は宇宙の分野でも繋がりがあると思います。

Q. 最後にサリーさんの夢を教えてください。

やはり、日本の人たちがアデレードのことをもっと知ってくれて、「アデレードに行ったことがあるよ」とか「行く予定にしている」という言葉を聞けるようになることです。「アデレードってどこ?」「アデレードでワインを作っているの?」とは聞きたくないですね。「バロッサバレーの赤ワインが飲みたい」「クレアバレーのリースリングが好き」なんて会話が聞こえてくるようになればとても素晴らしいことです。
一方で、南オーストラリア州からももっと日本に人が来てくれたら嬉しいです。日本に来れば絶対日本を好きになってくれると思います。アデレードはオーストラリアで唯一、自由移民によって開拓された街ですが、それ故様々な逆境も起業家精神で乗り越えてきた歴史があります。日本と同様、職人的な気質があり、家族代々受け継がれているビジネスも多くあります。安全という点でも日本に似ています。私はアデレードは"オーストラリアの中の日本"と言えると思っています。
南オーストラリア州の人たちが日本に来て、そして日本の人たちが南オーストラリア州のことを知って、お互いにたくさんの類似性があることに気がつくことで、日本と南オーストラリア州の結びつきはとても強くなると信じています。

取材: 2019年6月

Sally Townsend / サリー・タウンゼンド
南オーストラリア州アデレード出身。高校生の時に日本への交換留学を経験。その後英語の先生として日本を再訪問したことをきっかけに日本での生活を始める。日本大学を卒業した後、在日外資系企業などでビジネスのキャリアをスタート。オーストラリアを含む海外のワインを日本に輸入する事業などに従事する。2019年オーストラリア・ニュージーランド商工会議所(ANZCCJ)会長に就任。同年3月、南オーストラリア州政府事務所開設と同時に南オーストラリア州担当コミッショナーに就任。