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「身体化したかたち」 - 塩田千春


Installation view: Chiharu Shiota: Absence Embodied, Art Gallery of South Australia, Adelaide, 2018; photo: Saul Steed

塩田千春 (Chiharu Shiota)
Absence Embodied - 身体化したかたちの不在
Embodied - 身体化したかたち
Internal - インターナル

南オーストラリア美術館で日本人アーティスト 塩田千春さんの作品が展示されています。体の部分を形取ったオブジェを赤い糸を紡いで創られた大規模なインスタレーション、言葉にできない感情などが描かれたドローイング、彫刻で再現された家族の絆 -- "生きること""存在すること"が独特の世界観で表現されています。
今回アデレードでの出展にあたり、塩田さんに作品のコンセプトなどについてお話を伺いました。

Q. 塩田さんはオーストラリア国立大学に留学されていたそうですが、今回どのような経緯でアデレードでの出展となったのでしょうか。アデレードには以前にも来られたことはありますか。

最初のアデレード訪問は、留学時代です。その時は大学の夏休みでバックパックを一つ背負ってオーストラリアを旅していた時でした。
その後、2012年に文化庁から文化交流使に任命されてオーストラリアへ来た際にアデレードを再訪し、南オーストラリア美術館で館長やキュレーターの方々とお会いして展示の可能性を話していました。それから何度か美術館を訪問し、6年経った今年、ついに展覧会を開催する運びとなりました。


Installation view: Chiharu Shiota: Internal, Art Gallery of South Australia, Adelaide, 2018; photo: Saul Steed

Q. 今回の展示全体についてのコンセプトや個々の作品に関する特徴や見どころなどありましたら教えてください。

「身体化したかたち」というタイトルの展覧会で3つのスペースで展示をしています。
一つは美術館入り口のファサードに吊るした3つの赤いドレスの作品「インターナル」。私はいつもドレスを「第二の皮膚」と見立てて作品を作ります。その作品の下をくぐり美術館の中を進んでいくと赤い糸が空間を埋め尽くすインスタレーション「身体化したかたちの不在」という作品があります。これは、体の部分を形取ったブロンズと石膏のオブジェ、そして空間全体を赤い毛糸で編んでいます。糸は絡まったり、切れたり繋がったりと人間関係にも通じるものがあり、赤色は人の血液の色で人種や国籍、個々のアイデンティティーを表しています。ブロンズと石膏は私と、私の娘の腕や足です。昨年に癌を患い、入院中に自分の心と体に向き合いました。とても辛い時期でしたが、その時の経験がこの作品には込められています。作品は美術館のスタッフと一緒に14日ほどかけて仕上げました。
三つ目のスペースではドローイングやビデオ、写真や彫刻などの作品を展示しています。
キャンベラのオーストラリア国立大学へ留学中に制作した「絵になること」という初期のパフォーマンス写真も展示していて、昔から現在に至るまでの作品をご覧いただけます。


Exhibition view: Chiharu Shiota: Embodied, Art Gallery of South Australia, Adelaide, 2018; photo: Saul Steed

Q. 最後に、アデレードの日本人コミュニティにメッセージをいただけますか。

展覧会は10月28日までですが、美術館内ギャラリー14で展示中の赤い糸の作品はもう少し長く公開される予定ですので、お時間ございます時にお立ち寄りいただけたら嬉しく思います。

塩田千春
1972年大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。 京都精華大学に在学中、オーストラリア国立大学キャンベラスクールオブアートに留学。 2007年、芸術選奨文部科学 大臣新人賞受賞。2015年、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表として選出される。主な個展に、南オーストラリア美術館(2018年)、ヨークシャー彫刻公園(2018年)、高知県立美術館(2013年)、国立国際美術館(大阪、2008年)など。また、 シドニー・ビエンナーレ (2016年)、瀬戸内国際芸術祭(2010年)などの国際展にも多数参加。

日程等詳しい情報は南オーストラリア美術館HPまで。
artgallery.sa.gov.au