アデレードに家族で移住して約1年になる野島耕平さん。南オーストラリア州からのスポンサーシップを得てアデレードに渡航後、自らのインテリアデザインビジネスを立ち上げ、パートナーの美奈子さん、娘さんの家族３人と猫一匹で、新天地での生活を送っている。

移住のきっかけ

子どものころにドイツに住んでいたことがあるという野島さん。海外で働きたい、暮らしたいという気持ちは元々あったといい、美奈子さんも高校時代はアメリカに留学した経験もあるという。海外で生活する機会を考えていた二人にとって大きな転機となったのが2011年の東日本大震災だった。
「大きな震災を経験し、日本人がライフスタイルの質を見直すきっかけになるのではないかと思っていましたが、数年経ってみて、結局は経済性が優先される元の姿に戻ってきているように感じました。」
野島さんは同時に居心地の悪さのようなものも感じ始めるようになったという。そして、子どもの教育や将来のことも考慮したとき、日本を出て生活するという選択肢が現実的なものになり始めた。
色々な国を検討してイタリアには実際に住んでみたりしたものの、言葉や仕事の問題に直面したという野島さん。そんな時にたまたま美奈子さんがメルボルンの街を紹介するテレビ番組を見たことがきっかけでオーストラリアでの生活に興味を持ち始め、その後はビザエージェントとも相談しながら、最終的に南オーストラリア州のスポンサーシップを得てのビザ取得となった。

インテリアデザイナーとして

日本の大学、大学院で建築、ランドスケープ、都市デザインなど幅広い分野のデザインを学んだ野島さんは、大学院卒業後、文具、オフィス家具の製造・販売大手であるコクヨ株式会社に入社。ワークプレイスのコンサルティングや空間デザインの分野で多くのプロジェクトで活躍してきた。また、オフィス家具や保育園での子ども用のイスなどプロダクトデザインを手がける他、自宅までも自らデザインしたという。
順調にキャリアを積んでいた野島さんに転機が訪れ、移住にあたり会社に相談をしたところ、社員としての就業を継続したまま、現地でのビジネスも自ら行なうという新たなスタイルにトライすることになった。
「まったくの新しい環境での生活でも、仕事の面ではゼロリセットではなくキャリアを活かせるというのは大きかったです」
野島さんは現在もコクヨの社員としてオーストラリアでのオフィスの設計や、最新のワークスタイルを調査する業務を行いながら、最近立ち上げた自身のビジネスにも取り組み、忙しい日々を過ごしている。

「アデレードでのインテリアデザインの仕事はこれからですが、アデレードは重厚な建物が多くて、住宅でも店舗でも既存の建築物を利用してデザインをするのがおもしろそうです」
インテリアデザイナーとしては建物がかっちりしている分、中のデザインにギャップを持たせることでデザイン的な魅力を作り出せる可能性を感じている。
また、日本のシンプルで"削ぎ落としていく"デザインは、重厚なものに対してとても相性が良く、日本で培ったデザインのスタイルは、オーストラリアでは有効だそう。
「依頼主からデザインの仕事を伺う際、私は常にその場の持つ意図やビジョンにこだわっています。完成した空間から"ストーリー"が見えることをとても大切にしています。この姿勢はオーストラリアでも続けていきたいと思います」

これからのチャレンジ

「日本では会社としての仕事が中心でしたが、これからは可能性がある限り、柔軟に色々なことに挑戦していきたいです」
自分の芯を持ち、インテリアデザイン、空間デザインを軸にしながらも、建築やランドスケープ、グラフィック分野でのデザインもしてみたり、オフィスだけでなく店舗や住宅への展開も行うなど、今後は間口を柔軟に広げていこうと野島さんは考えている。また、オーストラリア全域はもちろん、オーストラリアを拠点にアジア地域にもビジネスを広げていく可能性も感じている。
「これからは自分で積極的に仕事を作っていかなくてはいけないのでとてもチャレンジングですが、何かの縁やひとつの出会いを大切に、一期一会の気持ちで取り組みます。」

また、美奈子さんは帽子のデザイナーとして自らのブランドを運営しており、日本の工房で製作した帽子をオンライン販売する他、メルボルンのショップ（Essential Hat）でも展開している。8月にはメルボルンのトレードショーに出店予定で、今後オーストラリアでの販路拡大を計画している。

野島ファミリーのアデレードでの新生活は始まったばかりだ。