東田 予志也 (弁護士 / Lawyer)
Never give up !
弁護士 / Lawyer
東田 予志也 (とうでん よしや)
小学校2年生のときに家族でアデレードに移住した東田さん。「私は下関生まれ、広島育ちなんです」という東田さんだが、9歳のときから楽しいこと、頑張ったことなど様々な経験とともに成長期を過ごしたアデレードは第二の故郷でもある。
家族での移住
東田さんの一家の移住のきっかけとなったのは、教育視察でアデレードを訪れ、オーストラリアの教育とアデレードの街の雰囲気に魅せられた父親の孝昭さんだった。2年後には夏休みを利用してアデレードの小学校に短期体験入学をし、その翌年には永住権を取得、そして1992年、満を持して移住を果たしたのだった。
当時アデレードには日本の企業こそいくつかあったものの移住者は珍しく、日本的な食材も今ほど豊富ではなかったという。そんな中で東田さんは先ず英語の勉強のために英語特別プログラムのある学校に1年間通い、その後 地元のグレンジ小学校に入学、3歳年上の兄とともにローカルの仲間入りをした。
ハングリー精神
「友達はすぐにできました」。現地校にも順調に適応し始めた東田さんだったが、どうしても言葉が思うようにうまく話せずに学校で一人だけ特別な勉強をさせられたりもしたという。「なぜ自分だけ、という気持ちが子ども心にもありました」。
そして東田さんにとって大きなターニングポイントとなることがYear 7のときに起きた。当時担任の先生に「英語力に問題があるので、他の生徒たちと一緒に中学・高校に行くことは難しいでしょう。小学校卒業後は語学学校などを考えてもいいのでは」と言われたのだった。「自分なりに一生懸命にやってきてもう5年以上もみんなと一緒にいるのに」。東田さんにとってこの出来事は、逆に「負けず嫌い」の強い気持ちを起こさせた。
そして東田さんはそれまで以上に「絶対に負けない」というハングリー精神を持って地元のヘンリー高校に入学した。先生を含め周りのオーストラリア人たちもサポートしてくれ、家庭教師にもついた。英語がうまくなりたい、と本をたくさん読み文章を暗記するようなこともした。そしてその結果、東田さんの学校の成績は全科目トップをとるまでになり、卒業時には成績トップの生徒に与えられるダックス賞を受賞、さらには南オーストラリア州公立校の最優秀生徒賞も授与されたのだった。
「一番うれしかったのはYear 12の英語の試験で満点を取ったことです。英語がセカンド言語の人間でもやればできる、そんな気持ちでした」。
持ち前のハングリー精神とたゆまぬ努力が実を結んだ瞬間だった。
弁護士に
現在弁護士として活躍する東田さんだが、弁護士になることを夢見ていたわけではないという。「私は根っからの文系人間ですが、弁護士という職業を考えたのは、弁護士は文系の仕事の中でも英語でコミュニケーションをとるのが一番難しい職業だと思ったからです」。英語では負けたくない、それまでの東田さんの強い気持ちが現在の職業にも繋がっている。
進学したアデレード大学では法学部と国際学部のダブルデグリーを専攻したが、高校でものすごく勉強した反動もあって大学入学後は自分自身が少し変わり始めたという。「18歳のときに家を出て一人で生活を始めました。全部一人でやらなくてはいけなくて、周りの人とのコミュニケーション力が求められました」。これまでとは違い世界から様々な人が集まる大学でコミュニケーションを広げ、人間的に成長した時期だったという。
卒業後、東田さんは弁護士の資格をとるためのLegal Diploma Studiesを修了し、2008年に現在の職場であるグリフィンズ法律事務所に就職した。
日本との架け橋
弁護士となって6年になる東田さんには日本人のクライアントも増え、日本の大手企業からの問い合わせもあるという。アデレードに来た当初から東田さん一家のルールは、家の中では日本語で話すことだった。日本の通信教育をやりながら日本語補習授業にも卒業まで通った。「当時は嫌だと思うこともありましたが、今ではそのころの勉強のおかげで日本語の維持ができたと思っています。自分に日本人としてのアイデンティティを築いてくれた親に感謝しています」。東田さんはこれからもっと積極的に日本人コミュニティと関わっていき、日本人をもっとサポートしていきたいと考えている。「日本人としての気遣いを大切にしながら、オーストラリアと日本の違いを伝えられればいいですね」
Never give up ―これからも絶対にあきらめない気持ちで上級弁護士を目指す東田さんは、第二の故郷で今度は自分の家族をもって新しい生活を始める予定だ。
グリフィンズ法律事務所:http://www.griffins.com.au/
15人の弁護士がそれぞれの専門分野をもつ。代表のグレッグ・グリフィンはサッカーAリーグのアデレードユナイテッドのオーナー兼会長でもあり、オーストラリアでは数少ないスポーツ法を扱う法律事務所としても知られている。
取材:2014年9月