アデレードで頑張る人を応援

室谷 真由美(ビューティーフード協会代表)/鈴木 隆之(シェフ)

アデレードと日本を"食"で繋ぐ

ビューティーフード協会代表 / President of Beauty Food Association
室谷 真由美(むろや まゆみ)

シェフ / Chef
鈴木 隆之(すずき たかゆき)

室谷真由美さん、鈴木隆之さん夫妻がアデレードを知ったきっかけは、真由美さんの友人がたまたまアデレード在住だったこと。これまで何度かアデレードを訪れる計画はあったものの実現できずにいたが、2023 年5 月、急ピッチで隆之さんの留学話がまとまり渡豪。次のステージへの準備を進めながら、アデレード生活を楽しんでいる。

You are what you eat. ―食べたもので身体ができているー

ビューティーフード協会と日本ヴィーガン協会の代表であり、環境省のアンバサダーも務める真由美さんの出発点は、今も続けているモデルの仕事を通じて得たマクロビオティックとの出会いだった。当時体調を崩しがちで仕事にも影響が出る状態だったが、マクロビオティックをきっかけに食の大切さに気づき、それを実践することで心身ともに目に見えて改善を実感することができたという。
「一般の栄養学的なものではなく、マクロビオティックに出会ったことで自分の常識をすべて覆されました。普段普通に買って食べているものは安全だと思い込んでいましたが、いろいろ調べてみると日本では添加物がとても多く使われていることを知りました」
正しい食の知識を持たないと自分の健康が脅かされると考え、真由美さんは知識を吸収しながら先ずは自らの食生活を玄米と野菜に変えてみた。すると途端にそれまでの身体の様々な不調が改善されていったという。
「『食べたもので身体ができている』ことを実感しました。自分の血液が変わることをコレストロール値の数字で体感しました」

多くの人たちに正しい食事の知識を知ってもらえるきっかけ作りができればと、真由美さんはマクロビオティックのインスタラクターの資格を取得。早速情報発信を始めたが、当時モデルとしてそのような発信をしている人があまりいなかったこともあり、マクロビオティックに関する仕事の依頼が次第に入るようになっていった。
「商品開発、書籍の発行、講演。やれることは何でもチャレンジしました」という真由美さんだったが、一人でできることの限界の壁にあたり、仲間を広げるために2012 年にビューティーフード協会を設立。当時、日本では野菜ソムリエが流行し、ロハスという言葉もあったものの、ヴィーガンという名前はまだまったく認知されていなかった。

運命的な出会い

独自の「ビューティーフード」メソッドを提唱し、ビューティーフードインスタラクターを養成しながら食の大切さを伝えるビューティフード協会だが、立ち上げ当初はレストランのヴィーガンメニュー開発も手がけていた。当時はヴィーガンメニューという発想も、それに興味を示す飲食店は日本にはまだほとんどなかったが、そんな中で真由美さんの監修メニューの導入を決めたのは、隆之さんが料理長を務める日本食料理店だった。ヴィーガンメニューが真由美さんと隆之さんの出会いを演出したのだった。
「ヴィーガンメニューをやり始めたら割と反響があり、他の店舗への広がりもありました」
ヴィーガンメニューとともに、真由美さんと隆之さんの繋がりもここから実を結んでいくこととなった。

英語をマスターしてお客さんに接したい

隆之さんは日本で25 年のキャリアを持つ和食の料理人だ。10 年ほど前、勤めていた会社が出店するニューヨークに行く話しもあったが、コロナ禍の影響もあり最終的にその話は実現せず、隆之さんはそのタイミングで自分の独立した店を構えることを決意した。出店場所として考えたのは、東京で外国人が多く住んでいる広尾エリア。和食店のターゲットも外国人を想定していた。ニューヨーク行きのことで英語への意識も高まっていたこともあり、隆之さんは英語力も高めて自らお客さんとコミュニケーションを図っていくことも織り込み済みだった。
しかし、出店に適した物件がなかなか決まらずに長期化する中、待っているだけではなく自分でできるところから始めていこうと、隆之さんはとりあえず英語を身につけるところから動き出すことにした。そう決めてから3 ヵ月後、隆之さんはアデレードの語学学校で英語の勉強を始めていた。

「できたばかりの学校で、生徒は最初僕も入れて3 人だけでした。クラスは3 人一緒でしたが他の2 人は英語を話せたので、英語がほぼゼロの状態の僕にとっては地獄でした」
そう笑う隆之さんだが、宿題もきっちりとこなして頑張り、一緒に渡豪した真由美さんが帰国する1 ヵ月半後には現地での生活にもすっかり慣れていた。現地到着から1 ヵ月後には日本食レストランでシェフとして働き出し、アルバイトの立場ではあるもののすぐに店を任されるまでになっていた。仕事がすぐに見つかり周りからはラッキーと言われることもあるというが、確かな腕と日本での実績があるからに他ならない。
調理器具の使い方や料理の下処理、食材の種類など、日本との違いに戸惑うことも最初はあったが、現地の日本食レストランでオーストラリア和食に携わっていることはとても新鮮で自分のためになっているという。また「こうしたらもっと美味しい」「準備に手間をかけるという和食の良いところを生かしたい」と感じながら、今は「アデレードで自分の店を持ちたい」と強く思うようになっているという。
「日本では四季を活かした料理がありますが、オーストラリアにも四季があるので、オーストラリアの食材で季節感を出せるような和食を提供していきたいです」
アデレードでの新たな夢の実現に向けて、隆之さんはこれから具体的なプラン作りに入っていく。

アデレードと日本を"食"で繋ぎたい

「"ビューティーフード"は、100%植物性の食事というコンセプトで展開しています。広く多くの方に知って欲しい、ヴィーガンという選択肢を伝えたい、という気持ちで特にコアターゲット層という意識はなかったのですが、気づいてみるとヴィーガンフードに関する情報は、アレルギーに悩む子どもを持つ親御さんのニーズに合うものだということが分かりました」
真由美さんは、今後さらにアレルギーで悩んでいる人たちにも情報をもっと届けることで、選択肢を学ぶ環境作りの力になれればと考えている。また、味噌や醤油など日本の発酵食品の素晴らしさ、その伝統製法に従事する生産者を応援しながら継承していきたいとも考えている。

一方、オーストラリアと比べるとヴィーガンに関してまだまだ発展の余地がある日本だが、例えばヴィーガンケーキの見た目や味の質はかなり向上してきているという。
「以前はショートケーキに似せて作るために食パンを三角に切ってイチゴを挟んでヴィーガンショートケーキを作っていましたが、今では米粉でフワフワのスポンジ生地を作って美味しく食べられるようになっています。繊細に作るという面での日本の技術はとても高いと思います」
真由美さんは、日本のヴィーガンが逆輸入のような形で、オーストラリアで受け入れられる可能性も感じている。そして、それが隆之さんが運営する和食店から発信される日も近いかもしれない。

真由美さんは自身のインスタグラムを通じて、国内外を問わずにヴィーガンの店や料理の情報発信を続け、紹介した店は4000 軒を超えるまでになっている。15 年前に始めた頃は1000 軒を紹介するのに5 年かかったが、最近は日本でも店が急速に増え、1 年半で1000 軒紹介するペースになっているという。
「アデレードからもたくさんのお店情報を発信しています。アデレードでも事前に店を調べることもありますが、大抵の店にヴィーガン料理があるので紹介しやすいです」

ヴィーガンという文化がしっかりと根付き、人も親切で過ごしやすいアデレードを本当に気に入っているという真由美さんと隆之さん。今後アデレードと日本を"食"で繋ぐアンバサダーとして、双方の人たちにより多くの選択肢を提供していく。

ビューティーフード公式サイト
http://www.beautyfood-life.com/
https://www.instagram.com/organicbeautyfood/
室谷真由美さんインスタグラム
https://www.instagram.com/muroya_mayumi/

取材:2023 年12 月