アデレードのワイン探訪

【現地ガイドが推す】最近おすすめのバロッサのワイナリー Part I

松田なつみ (Natsumi Matsuda)
福島県福島市出身。学生時代をアメリカで過ごし、東京で就職。ワインスクールに軽い気持ちで通ったのをキッカケにワインに魅了され、JSAワインエキスパートの資格を取得。2023年にアデレードに移住し、日本語ワイナリーツアー会社を立ち上げて活動中。オーストラリア生活は15年目。
[ winejoy.com.au ]

Alkina(アルキナ):バロッサの常識を静かに塗り替えるワイナリー

ワイナリーガイドをしていると、お客様からよく聞かれる質問があります。

「最近おすすめのワイナリーはどこですか?」

バロッサにはRockford(ロックフォード)、Henschke(ヘンシュケ)、Yalumba(ヤルンバ)など、名門ワイナリーが数多くあり、1日かけても回りきれません。 ワイン好きのお客様の中には「2〜3日かけてバロッサを回りたい」というディープなリクエストも多くあります。今回は、そうした方にまずおすすめしたいワイナリーをご紹介します。

バロッサといえば、一時期は「パワフルでジャムのように濃厚な果実味に、アメリカンオークを合わせたシラーズ」が代名詞でした。しかしここ数年、これまでのイメージとはまったく異なる動きが静かに、しかし確実に起きています。 今回ご紹介するAlkina(アルキナ)は、その象徴的な存在のひとつです。

アルゼンチン出身の富豪とテロワールの専門家が出会った場所

Alkinaの始まりは2015年。アルゼンチン出身の実業家であるAlejandro Bulgheroni(アレハンドロ・ブルゲローニ)氏が、バロッサ・ヴァレー西部Greenock(グリーノック)にある古いブドウ畑を取得したことからスタートします。

彼はエネルギー事業で成功を収めた後、現在ではアルゼンチン、ウルグアイ、アメリカ、イタリア、フランス、オーストラリアなど、世界各地で15以上のワイナリーを展開しています。単なる投資ではなく、「土地と哲学ごとワイン造りを設計する」というアプローチが特徴です。

そこに加わったのが、世界的なテロワール(土壌)研究の第一人者であるPedro Parra(ペドロ・パラ)氏です。この組み合わせが、Alkinaの方向性を決定づけました。

「同じ畑なのに、なぜここまで違うのか」

パラ氏は長年にわたりAlkinaの土壌を分析し、地質の違いによって畑を細かく区分しました。こうして生まれたのが「Polygon(ポリゴン)」プロジェクトです。

このプロジェクトでは品種(グルナッシュ)、樹齢、醸造方法を統一し、変えるのは土壌だけ。 ワインの違いを技術ではなく、土地そのものの個性で証明する試みです。土壌の個性を最大限引き出すために、オーガニック及びビオディナミ農法も取り入れられています。

実際に複数のPolygonを並べてテイスティングすると、同じグルナッシュとは思えないほど香りも構造も異なり「畑の違い」がそのまま味として立ち上がってきます。

伝統と実験が共存する醸造哲学

Alkinaでは野生酵母による発酵に加え、全房発酵やスキンコンタクトも取り入れています。

熟成には新樽をあえて使わず、コンクリート・エッグやアンフォラ(クレイ)を使用。樽で味を"作る"のではなく、ブドウ本来の表情をそのまま引き出すスタイルです。その結果、どのワインにも共通して「透明感」と「奥行き」が同居しています。

セラードアと体験価値

セラードアは19世紀に建てられた歴史あるコテージを改装した空間で、バロッサの歴史的建築の雰囲気をそのまま残しています。敷地内には宿泊施設もあり、ワイナリーでの滞在も可能です。

セラードアではBulgheroni氏が世界各地で手がけるワインも提供されており、「International Flight」を選ぶことで、バロッサ以外の彼のワインポートフォリオも体験できます。

目玉は「Polygonシリーズ」のテイスティングで、要予約・約100ドルのプレミアムフライトです。その分、スタッフやワインメーカーが畑ごとの違いや背景を丁寧に解説してくれるため、「なぜ味が違うのか」を体験として理解できる貴重な時間になります。

「少し試飲に100ドルは高い」と感じる方には「CLASSIC FLIGHT」もおすすめです。特にEstate Semillonは評価が高く、テクスチャーの美しさとミネラル感が印象的な一本です。

<Polygonシリーズの比較>

◆ Polygon No.3 Grenache 2023

Polygon No.3区画の石灰岩と片岩質土壌で育ったグルナッシュ。淡い色調ながら香りは非常に複雑で、赤系ベリー、スパイス、柑橘の花、カカオのニュアンスが層のように広がります。透明感と躍動感にあふれ、バロッサの従来のグルナッシュとは一線を画すスタイルです。

◆ Polygon No.2 Grenache 2023

硬い片岩と石灰質土壌から生まれたグルナッシュ。赤い果実やオレンジの花、スパイス、ミネラルのニュアンスが重なり、透明感のある果実味と繊細なタンニンが美しく調和しています。土壌の個性を見事に映し出したエレガントな一本で、生産量が極めて限定されている希少なワインです。

◆ Polygon No.5 Grenache 2023

石灰岩と片岩質土壌由来のエレガントなグルナッシュ。淡いルビー色で、ラズベリーやチェリー、スパイス、花の香りに加え、紅茶のようなニュアンスが重なります。軽やかで繊細ながら、ミネラル感と骨格がしっかりと感じられる仕上がりです。

バロッサの中でAlkinaが示す新たな方向性

Alkinaは決して派手さで注目を集めるワイナリーではありません。むしろバロッサという長い歴史を持つ産地の中で、「なぜこの土地のワインはこういう味わいになるのか」という根本を、もう一度丁寧に問い直している存在です。

名門ワイナリーを巡ったあとに訪れると、その"静かな違い"がよりはっきりと感じられるはずです。そして私自身、この数年で最も「バロッサに対する見方そのものを更新された」と感じたワイナリーのひとつです。

次回はまた違う視点から、バロッサのもう一つの表情をご紹介します。