南オーストラリアのワイン文化を紐解く旅
松田なつみ (Natsumi Matsuda)
福島県福島市出身。学生時代をアメリカで過ごし、東京で就職。ワインスクールに軽い気持ちで通ったのをキッカケにワインに魅了され、JSAワインエキスパートの資格を取得。2023年にアデレードに移住し、日本語ワイナリーツアー会社を立ち上げて活動中。オーストラリア生活は15年目。
[ winejoy.com.au ]
南オーストラリア州の首都アデレードは、世界的にも名高いワイン産地に囲まれた都市です。バロッサ・バレー(Barossa Valley)、マクラーレン・ヴェイル(McLaren Vale)、アデレード・ヒルズ(Adelaide Hills)といった産地は、それぞれ独自のテロワールを持ち、魅力的なワインを生み出しています。バロッサから少し北に足を伸ばせば、イーデン・バレー(Eden Valley)とクレア・バレー(Clare Valley)も広がっています。これらの地域は、アデレードから日帰りで訪れることができ、オーストラリアのワインを世界に広めた立役者としても知られています。
バロッサ・バレー(Barossa Valley):シラーズの聖地
バロッサ・バレーは、オーストラリアで最も有名なワイン産地のひとつであり、特にシラーズ(フランスでは「シラー」と呼ばれる品種)で世界的に知られています。シラーはフランスのローヌ(Rhône)地方で栽培されることで有名ですが、バロッサのシラーズは、よりリッチでフルボディなスタイルが特徴です。有名なワイナリー
- ペンフォールズ(Penfolds):バロッサを世界的に有名にしたワイナリー。ペンフォールズの歴史はアデレード近郊のマギル(Magill)で始まりました。現在もマギルにはセラードアがあり、訪問者はワイナリーの歴史を感じながら、ペンフォールズのフラッグシップワインであるグランジ(Grange)をはじめとするプレミアムワインを味わうことができます。
- ジェイコブズ・クリーク(Jacob's Creek):オーストラリアを代表する大規模ワイナリー。日本でも多くのスーパーやワインショップで手に入りやすく、食事に合わせやすいワインとして多くのワイン愛好者に親しまれています。
- セッペルツフィールド(Seppeltsfield):セッペルツフィールドは、特に古い年代物のトゥニー(Tawny)で知られています。トゥニーとは、樽で長期間熟成された酒精強化ワインで、特有のナッツやカラメルの風味が魅力です。
マクラーレン・ヴェイル(McLaren Vale):革新と伝統の融合
マクラーレン・ヴェイルは、バロッサと並んでオーストラリアを代表するワイン産地で、特にシラーズとグルナッシュが有名です。この地域は、地中海性気候と多様な土壌が特徴で、ワインに複雑な風味をもたらします。マクラーレン・ヴェイルは古い伝統を守りつつも、オーガニック農法を積極的に取り入れ、環境に配慮したサステイナブル・ワインの生産で知られています。有名なワイナリー
- ダーレンベルグ(d'Arenberg):オーガニックやバイオダイナミック農法を積極的に取り入れることで有名なワイナリー。ワイナリー内に建てられたダーレンベルグ・キューブは、現代アートとワインの融合を象徴する建築物です。
- ハーディーズ(Hardy's):長い歴史を持つワイナリー。創業当初から高品質なワインを生産し、国内外での成功を収めました。特にシラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンが有名で、国際的なワインコンクールでも数々の賞を受賞しています。
- ヤンガラ・エステート(Yangarra Estate):化学肥料や農薬を使わず、自然のリズムに従ってブドウを栽培し、テロワールを最大限に活かしたワインの造り手。サステイナブルワイン生産の先駆者として高く評価されています。
アデレード・ヒルズ(Adelaide Hills):冷涼な気候が生む繊細な味わい
アデレード・ヒルズは、アデレードの東に広がる冷涼な産地で、シャルドネやピノ・ノワールが特に有名です。標高の高い丘陵地帯が、フレッシュでエレガントなワインを生み出しています。有名なワイナリー
- ショウ・アンド・スミス(Shaw + Smith):エレガントなシャルドネとピノ・ノワールで知られる、アデレードヒルズを代表するワイナリー。最近ではシラーズの評価も急上昇しています。
- ペタルマ(Petaluma):「適材適所」の理念に基づき、リースリングはクレア・バレー、シャルドネはアデレード・ヒルズ、メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンはクーナワラで栽培しています。各地域のテロワールを活かしたワインが特徴です。
- バード・イン・ハンド(Bird in Hand):フレッシュでフルーティなスタイルが特徴。ワイン生産だけでなく、アートや文化活動を積極的に支援しています。
イーデン・バレー(Eden Valley)とクレア・バレー(Clare Valley):リースリングの名産地
バロッサ・バレーの北東に位置するイーデン・バレーと、さらに北に位置するクレア・バレーは、リースリングの名産地として知られています。イーデン・バレーは冷涼な気候と高い標高により、爽やかでフローラルなリースリングが作られます。一方、クレア・バレーのリースリングは、ミネラル感が強く、長期熟成に耐えるワインが多いです。有名なワイナリー
- ヘンシュケ(Henschke):イーデン・バレーにあるヘンシュケは、「ヒル・オブ・グレース(Hill of Grace)」という畑で作られるシラーズで特に有名です。このシラーズは非常に希少で高品質なワインであり、その人気と価格は、バロッサ・バレーのペンフォールズ・グランジに匹敵する評価を受けています。
- ジム・バリー(Jim Barry):クレア・バレーで最も評価の高いワイン生産者の一つで、特にリースリングが有名です。ミネラル感と鮮やかな酸味が特徴で、長期熟成にも適しています。
- グロセット(Grosset):クレア・バレーを代表するワイナリー。特に「ポーリッシュ・ヒル・リースリング(Polish Hill Riesling)」は、その洗練されたミネラル感と鮮やかな酸味で高い評価を受け、オーストラリア最高のリースリングの一つとされています。また、スクリューキャップをいち早く導入したワインとしても知られ、ワイン業界に大きな影響を与えました。