夏の風物詩:オーストラリアで愛されるスパークリング・シラーズの魅力
松田なつみ (Natsumi Matsuda)
福島県福島市出身。学生時代をアメリカで過ごし、東京で就職。ワインスクールに軽い気持ちで通ったのをキッカケにワインに魅了され、JSAワインエキスパートの資格を取得。2023年にアデレードに移住し、日本語ワイナリーツアー会社を立ち上げて活動中。オーストラリア生活は15年目。
[ winejoy.com.au ]
夏時間が始まり、ジャカランダの花が咲き誇ると、オーストラリアは一気に春から夏に突入します。筆者もオーストラリアに来て最初の数年は、夏の年末年始に違和感を覚えていましたが、今では真夏のクリスマスと新年にすっかり慣れてしまいました。寒い日本のお正月も懐かしい気持ちはありますが、暖かい気候で迎えるホリデーシーズンが楽しみになっています。
そんなオーストラリアの夏を彩る存在として欠かせないのが「スパークリング・シラーズ」(Sparkling Shiraz)です。家族や友人が集まるクリスマス・ランチでは、キリッと冷えたスパークリング・シラーズが定番。この発泡性赤ワインは、オーストラリアならではの歴史と文化が生んだ、クリスマスにぴったりの一本です。
スパークリング・シラーズの歴史
スパークリング・シラーズの起源は、19世紀後半のオーストラリアに遡ります。1881年、フランス人ワインメーカーのオーギュスト・ダルジャン(Auguste D'Argent)がメルボルンでピノ・ノワールを使った「スパークリング・バーガンディ」を造り、これが発泡性赤ワインの始まりとなりました。
スパークリング・シラーズの誕生については2つの説があります。一つ目は、1890年代にヴィクトリア州グランピアンズにあるグレート・ウェスタン・ワイナリー(Great Western Winery)で、シャルル・ピエロ(Charles Pierlot)がスパークリングワインの生産を開始したという説です。当時、ワイン用に使える品種がシラーズしかなかったともいわれ、このワインはフランスで賞を獲得しました。1918年にはバロッサ・バレーにあるセッペルツフィールド(Seppeltsfield)の2代目、ベノ・セッペルト(Benno Seppelt)がグレート・ウェスタンを買収し、ワイナリーを「セペルト(Seppelt)」として再出発させました。ベノはまた、セッペルツフィールドで100年熟成の酒精強化ワインの貯蔵を始めたことでも知られています。
もう一つの説は、1893年にエドマンド・マズール(Edmund Mazure)がアデレード郊外のオールダナ・ヴィンヤーズ(Auldana Vineyards)でシラーズを使ったシャンパーニュ製法の発泡性赤ワインを生産し始めたというものです。マズールもフランス出身で、もともとペンフォールズに勤務していました。その後、オールダナ・ヴィンヤーズはペンフォールズに買収され、ペンフォールズのワイン貯蔵庫として使用されるようになりました。このオールダナ・ヴィンヤーズは、以前紹介したペンフォールズのマギル・エステートからすぐ近くに位置しています。
こうした歴史的な取り組みによって、スパークリング・シラーズはオーストラリアを代表する発泡性赤ワインとしての地位を確立し、現在ではオーストラリア全土で親しまれる特別なワインとなっています。
オールシーズンで楽しめる魅力
スパークリング・シラーズは、クリスマスやホリデーシーズンだけでなく、オーストラリアの日常にも溶け込んでいます。特に夏のバーベキューシーズンには欠かせない存在で、冷えたスパークリング・シラーズが、ステーキやグリルチキン、バーベキューポークといった料理を引き立てます。泡の爽やかさが肉の旨味を軽く包み込み、後味が重くならないのがポイントです。普段のカジュアルな食事からパーティー、さらには秋冬にはビーフシチューなどの煮込み料理にも合わせやすく、季節を問わず活躍する万能なワインです。
日本料理や四川料理との意外なペアリング
スパークリング・シラーズは、日本料理の甘辛いソースを使った料理にもよく合います。例えば、トンカツ、お好み焼きやたこ焼き(マヨネーズは少なめがおすすめ)、焼き鳥などと合わせると、シラーズ特有の果実味が甘辛い味を引き立て、ワインの泡が後味をすっきりとさせてくれます。また、濃厚なタイプのスパークリング・シラーズは、思い切って辛い四川料理に合わせるのもおすすめです。辛味でヒリヒリした舌に豊かな果実味が心地よく感じられ、料理とワインが絶妙な調和を生み出します。
日本へのお土産としてもおすすめ
オーストラリアならではのスパークリング・シラーズは、日本へのお土産としても大変喜ばれます。オーストラリアでしか手に入らないこの特別なワインは、クリスマスやお正月にご家族や友人と乾杯するのにぴったりです。また、日本ではあまり馴染みのない発泡性の赤ワインというユニークさも魅力の一つ。オーストラリアの味わいを日本の食卓で再現できる、素敵なお土産になるでしょう。
クリスマスにおすすめのボトルとテイスティングコメント
ここで、ホリデーシーズンに試してみたいスパークリング・シラーズをいくつかご紹介します。
- Rockford Black Shiraz Sparkling Disgorged 2024, Barossa Valley, South Australia
スパークリング・シラーズの最高峰と称されるロックフォードの「スパークリング・ブラック・シラーズ」。オーク樽で長期間熟成させた高品質なシラーズを使用し、伝統的な瓶内二次発酵(シャンパーニュ製法)で丁寧に仕上げられています。その結果、柔らかさと深みのある味わいに複雑な香りが加わり、贅沢な一杯が完成します。
このワインは幅広い料理と相性が良いですが、特に「クリスマスの朝」の乾杯におすすめです。リッチで芳醇な果実味、ほのかなスパイス、そしてクリーミーな泡が特別な日の始まりを華やかに彩ります。
バロッサのロックフォードでは、このスパークリング・シラーズをはじめ、高品質なワインを無料でテイスティングさせてくれます。市場価格よりお得な蔵出し価格で購入できるのも魅力です。1人3本までの購入制限はありますが、クリスマスや特別な日のために確保するには絶好の機会です。我が家もクリスマス用に購入しました。ぜひ現地でこの特別な体験をお楽しみください! - Seppelt Original Sparkling Shiraz NV
スパークリング・シラーズの発祥のワイナリーとして知られるセペルトの「オリジナル・スパークリング・シラーズ NV」。このワインは、果実味とスパイシーなアクセントが見事に調和した一本です。
マルベリーやブルーベリーのフルーティーな香りに、エキゾチックなスパイスと華やかなフローラルノートが重なり、複雑で奥深い香りを楽しめます。きめ細やかな泡が口当たりを滑らかにし、ジューシーな果実のフレーバーが広がります。後味にはダークチョコレートのほろ苦さが加わり、甘みとスパイスのバランスが絶妙です。
特別な日のお祝いにも、気軽なディナーにも合わせやすい、飲みやすいスタイルのスパークリング・シラーズです。ぜひお試しください! - Rumball Sparkling Shiraz - Coonawarra, South Australia NV
Rumballは、南オーストラリア州クナワラ産のシラーズを100%使用した、しっかりとした味わいが特徴のスパークリング・シラーズです。
カシスやバニラの豊かな香りが広がり、果実味たっぷりの深い味わいが楽しめます。上品でクリーミーな泡と優しい酸味が絶妙に調和し、バランスの良さが際立っています。
高品質ながら手頃な価格で、普段の食事にも特別なシーンにもぴったり。濃厚な果実味と複雑さを求めるワイン愛好家におすすめの一本です。ぜひ、大人な味わいをお楽しみください!