Dr 早坂の「ワイン酔もやま話 「一本のワインボトル」
早坂洋司
工学博士。1980年代に家族と共にオーストラリアに移住。現在オーストラリアワイン研究所でSenior Research Scientist として勤務。
趣味はワインを飲みながら藤沢周平を読むこと。2005年に生物学でイグ・ノーベル賞受賞。
一本のワインボトル
古今東西、酒に関する格言、名(迷)言が多い。「一本のワインボトルの中には、全ての書物にある以上の哲学が存在する」、「酒と女と歌を愛さぬものは、生涯愚者である」などは、世に偉大な足跡を残した人たちの呟きである。家内は納得していないが、飲んべいの言い訳に大いに利用している。歴史的には、遥かエジプト・メソポタミヤ文明時代に、人々はすでにワインを楽しんでいたとの事。古今、人は飲んでいる時の溢れ出る自己顕示と二日酔いによる自己嫌悪を繰り返しながら、人生の意味を考えてきたわけである。このコラムも、ワインに導かれるままに!
ワインは、神の雫か、匠の技から生み出される芸術品か、たんなる農産加工物か、はたまた生化学・化学反応生成物か。ワイン産業に携わる研究者としては、ワインに関するミステリアスな領域に踏み込み、偶然や経験の伝承の裏にある理を明らかにして、知識に基づいたワイン造り、造り手の意思・思想が出来上がったワインに確実に表現される事を目指している。
オーストラリアでのワイン造りは、18世紀後半、英国人の入植と同時に始まった。シドニーのCamden Parkに初めての商業用ビィンヤードとワイナリーが設立され、1850年までには、ほとんどの州でワイン用ブドウが収穫された。この200年の歴史は、広大な乾いた大地に水滴を落とす様に始まったワイン作りが、生産量で世界6位、輸出量で4位と、ワインのNew worldの旗手にまで成長した物語である。
欧州諸国 (Old world) やアメリカ、南アフリカ、ニュージーランド、南アメリカ諸国を含むNew worldのワイン生産国が群雄割拠する国際市場で、何故オーストラリアワインが急速に市場を拡大できたのか? 今日はここまで。